「多様な働き方」今を生きるろう難聴女性の本音を聞いてみよう。Part2(5/6)

<多様な働き方>

加藤:働き方は人それぞれだと思いますが、周囲の友人の中には、3年位働いた後は結婚退職し、仕事は夫に任せて自分は主婦になりたいと考える人も多いように思います。

中原:私もどちらかというとそういう考え方を持っています。結婚後は仕事を辞めて主婦業に専念したいと思っています。両立するとなると、家事の分担方法などについて夫婦で喧嘩になることがあると聞くので、揉めるより夫は仕事、私は家庭と役割分担したいですね。

平井:そういう考え方もあって当然だと思います。正直、女性のキャリアアップと聞くと、キャリアウーマンというイメージがありますが、全ての女性にあてはめるということではなくて、様々な考えを持つ人がいるので、主婦業に専念したいという立場も大事にすべきだと思います。立場も状況も違うので、それをお互いに受け止めた上で、女性としてのキャリアアップについてどう考えていけばよいか進めていければいいと思います。

長野:育児や主婦業は、大変なわりに個人の領域の無償労働で済まされて社会的な評価はされないので、仕事や社会活動で自分のキャリアを築きたい女性にとっては、出産や育児に二の足を踏んでしまう面があると思います。逆に、主婦業に専念する人からは、「最近、社会全体が働く女性を支援する風潮があるから肩身が狭い。育児や主婦業の大変も理解してほしいし、主婦にもスポットライトをあててほしい。」と言う声もよく聞かれます。

ところで、最近、テレワーク(在宅ワーク)という働き方が注目を集めています。育児しながら仕事をしていると、子どもの急病で呼び出されたりで会社に出勤することが難しいことも多いので、テレワークという働き方は育児や介護中の女性にとっては大変助かる制度だと思うのですが、その前にその仕事に関する技術を持っていることが最低条件だと思うんですよね。出産前までにその技術を磨いて、テレワークという形で任されるというように会社との信頼関係の醸成が必要になるのかなと思います。私の周囲にも、育児しながらそういう働き方を実践している方がいます。

平井:テレワークという働き方は日本ではまだあまり普及していないように思いますが、実際にテレワークを利用する割合は女性の方が多いですよね。他にも時短出勤のような勤務形態があるけれど、女性が出産後も働き続けることができる環境をさらに充実させていってほしいと思っています。

小林:テレワークという家の中でとかで仕事をするというスタイルは、まだあまり知られていないと思うのですが、福利厚生に関することも含めていろんな情報を取り入れておいた方がいいですよね。このようにいろんな情報を自由自在に取り入れることは、ろう者の場合はなかなか難しいことだと思うんです。聴者の場合、常日頃から「耳学問」、つまり知らずのうちに学び、必要な情報と要らない情報を取捨選択していると思いますが、ろう者の場合は、目で見える情報は取り入れることができるものの、音声による情報をはじめ自分の周囲で色々な情報が飛び交っていることにさえ気が付かない人も多いと思うのです。これは、ろう者全般としての問題なのではないかと思っています。

管野:仕事内容だけなく、職場の人間関係の状況なども把握しにくくなるのではないかと思います。例えば、職場内の人間関係は耳から入る情報が大切だと思うのですが、特に女性同士は、昼休みにまとまってランチに行くということがあるけど、ろう者は話の輪に入れず、苦手とする人が多いと思います。 

中原:私も経験があります。飲食店で働いていた時、従業員同士で食べに行くことがあったのですが、会話が読み取れず、発言するタイミングもなかなかつかめないままどんどん進んでしまいました。話の内容は、どのように運営すれば売り上げが上がるかというような話題だったようです。私の職場には、他にもろう者がいますが、結局ろう者だけで固まってしまって、ろう者側から積極的に意見を言う話し方やスムーズな関わり方等を話せるタイミングも掴めないまま3年、4年、5年が経ってしまっているという感じです。そういう意味で、働く中で困ったことがあった時、それを話すタイミングやきっかけをどのように掴むかを知りたいです。会社に入社した時に、自分のことを話す機会はあると思いますけれど、入社したばかりなので何が必要で何が要らないかといった判断が難しいと思うのです。だから、入社時だけでなく、3年、5年、10年と働いた後に、それぞれどのように対応してきたかということも知りたいです。

平井:会社の中で、ろう者の男性と女性で同時期に入社してきたとしても扱い方が違うように感じています。障害者でも仕事ができれば色々仕事を任せると思いますが、会社側は特に上司あたりが男性だと女性よりも男性にお願いする傾向があるという話を聞いたことがあります。

小林:男性同士ですと、心理的にもいろいろと話しやすい、頼みやすいのかもしれませんね。

管野:遅くまで残業することについて私自身は気にしていなかったのですが、結婚後は周囲から「大丈夫?早く家に帰った方がいいよ」と気を使っていただいて、戸惑いもありました。やはり、上からすると男性と女性では、責任の重い仕事は男性の方が頼みやすいという気の使い方があるかもしれません。子どもが小さい時は、男性も早く家に帰ったらと言われるかもしれませんが。大杉先生はそのような経験はありますか。

大杉:米国に暮らしていた時はいつも周りから言われましたよ。そう言われたらその雰囲気に従いますね。日本に帰って、20人ほどの部下を持つ管理職を経験した時に、女性から生理休暇の申し入れがあって、自分がそういうことに全く慣れていなくて戸惑ったことがあります。他に管理職で学んだこととして、精神的な問題とかで病院の診断書を提示されれば、その内容によって仕事の調整をするなどの対応が必要だということがあります。そういう意味で、ろう者としての問題や女性としての問題が色々と混じっているようで難しいように思いました。

ですから、今回20代30代のみなさんがこうして集まって色々な話をしていく中で、自分の将来について考えたりすることはよいことだと思うし、そういう場をもっと作っていくことが必要だと思います。例えば、先輩の話を聞くというところで、聞くだけでなく質問することでそこでコミュニケーションが生まれるわけですから。前に筑波技術大学で実施したエンパワメント研修会のように、ろう女性の参加者を増やして議論すれば、そこで共通する意見と異なる意見がはっきり見えてくるのではないかと思います。対象を女性のみに絞るのではなく、普通にキャリアをテーマとして集まる中で、女性に関するテーマも扱えればそれだけでも大きいと思います。

小林:なるほど、まずは幅広くキャリアというテーマについて集まっていただく中で、女性に関する内容を話す機会を作るのもよいということですね。結婚したら生活を共にしていくわけですし、男性も女性もお互いに理解しあう姿勢が必要なのではないかと思います。

門脇:聴こえる女性の間でどのようなネットワークがあるのかということを知るのも、ろう女性としてどう生きていけば良いか参考になるのではないのでしょうか。

長野:地域に男女共同参画センターがあって、そこで仕事や生活、マネープランに関する内容などの暮らしに関する連続講座が開催されていたので、手話通訳を同行し参加したことがあります。参加者は聴者ばかりでしたが、地域の情報や生活設計のための知識を得ることができました。地域のリソースを利用するのも1つの方法だと思います。

平井:ワークキャリアだけでなく、ライフキャリアについて考えることも大事ですね。ライフキャリアの中には、家庭や育児、地域活動もそうですが、デフスポーツも含まれるのではないかと思います。

<老後の生活設計について>

小林:近年、生涯独身でいる女性が増えてきていますが、老後の生活にかかるお金や介護サポートをどうすればよいかという辺り、不安に思う人が多いという話をよく聞きますね。定年までにいくら蓄えれば老後の生活が成り立つかとか。今は定年65歳というところが増えてきていると思いますが、退職した後もう30年生きるとしたら、その間年金だけでは足りないと思いますし、働いているうちに厚生年金なり国民年金なり生涯保険なりしっかり払っていくとか早めの対策を考えていかないといけないわけですよね。

長野:それは、子どもがいても同じです。子どもはいつか出て行きますし、いつ配偶者に先立たれるかもわからないので、最後は皆ひとりです。今、『人生100年時代』と言われていますから、ひとりひとりがライフプラン、マネープランを考えていくことが大事ですよね。そういう意味で、暮らしをマネジメントする力も大切になってきますね。

大杉:年金に関しては、日本年金機構から書類などが届いた時、そこに年金の計算方法が書いてあるので、老後は自分がいくら貰えるのか調べるとよいです。あとは、一応知っておいたほうが良いのは、今仕事を辞めた場合の手当と、定年で退職した時の退職金ではどのぐらい違うのかとか、60歳で辞める場合と65歳まで延ばしてもらって退職する場合とでは年金額がどう変わるのか、その辺りは、仕事していく上で把握することが大事だと思います。

小林:保険と年金は別物だということを知っておくことも大事ですね。ただ、こういった情報について記載したパンフレットや本を読んでも、十分に理解するのは難しいと思うんです。ろう者の場合、文章を読んで理解するのが苦手な人もいると思いますが、なおさら理解するのは難しいと思います。一般の講座とかに参加するなりよりよい細かい情報を得る方法もあるとは思いますが、手話通訳をお願いするなり情報保障面での課題が出てくるでしょうし、情報量は明らかに聴者よりも少なくなってしまいますよね。


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