平成26年度第5回ろう者学ランチトーク:小林洋子先生

2014/06/08掲載

 6月4日(水)に第5回ろう者学ランチトークを開催いたしました。

 今回のテーマは「ろう者と遺伝子 ~どうしてろう・難聴になるのかな?~」でした。今回講師を務めたのは本プロジェクトスタッフの小林洋子先生です。小林先生は東京農業大学への進学、ヤクルトでの研究開発職を経て、米国カリフォルニア州立大学ノースリッジ校(CUSN)大学院へ留学し、公衆衛生学の修士号を取得しました。2年前に帰国、今年の4月から本学障害者高等教育研究支援センターの助教として教鞭をとっておられます。

 遺伝子と聞かれてもあまりピンと来ないかもしれませんが、実は遺伝学とろう者コミュニティは昔から深い関わりがあるそうです。例えば、米国東海岸マサチューセッツ州に属するマーザズ・ヴィ二ヤード島は過去18世紀初頭から20世紀にかけて遺伝的に多くのろう者が多く住み、島独特の「マーザズ・ヴィ二ヤード手話」を生み出しました。聴こえる島民も日常的に手話を使用しており、ろう者も聴こえる人となんら変わりない生活を送っていたという説があります。「マーザズ・ヴィ二ヤード手話」は現代における手話言語学研究の基盤を作ったとも言われています。

 遺伝学の発展は優生学という概念を生み出しますが、後に米国の産児制限やナチス政権による人種政策、そしてユダヤ人大虐殺というような様々な悲劇をもたらしました。障害者にも目を向けられ、ろう者が生まれるのは望ましくないと当時のろうコミュニティを震撼させました。このような優生学的な考え方を提唱し世の中に広く知らしめたのが、電話を発明し、聴覚障害教育に尽力したことで知られるあのアレキサンダー・グラハム・ベルでした。「ろう学校の存在がより多くのろう者を生み出している」「ろう者同士特に両親がろう者の場合、ろう児が生まれる可能性が高いため結婚は避けるべきだ」と警告したりするなど、ろう・難聴者の気持ちや権利を無視するようなものでした。

 ろう・難聴者はどのようにして生まれてくるのか。人間は44本の常染色体と2本の性染色体を持ち、両親からその染色体を引き継ぎ、構成されていきます。ろうとして生まれた場合、その染色体になんらかの変異があった可能性があります。

 先天性高度難聴のうち50%は遺伝子によるもので、最も高い頻度で見られるのが「コネキシンCx26遺伝子」だそうです。両親共にコネキシンCx26遺伝子を保因している場合、生まれてくる子どものうち25%はコネキシンCx26遺伝子を引き継いで、ろう・難聴として生まれるそうです。生まれた時に聴こえていても高熱など何らかの原因で遺伝子に変異が起こり、ろう・難聴になるケースもあるそうです。

 最後に倫理的な問題として、欧米を始め日本において障害当事者がきちんと把握できていないまま医療関係者や研究者の間で遺伝子についての研究が活発に行われていることを話されていました。遺伝子は一体誰のものなのか、当事者(ろう者)の理解や視点なしに研究を進めていくことへの違和感、今後もっとろうコミュニティに周知させていく必要があるということを話されていました。

 おかげさまで53名の参加がありました。学生からも「自分がろうということは、遠縁にろう・難聴がいる可能性があるのか」「先祖の誰かが遺伝子を保因していた可能性があるということなのか」と質問があり、なぜ自分はろう・難聴として生まれてきたのか、自分はどのような遺伝子を持っているのか興味がわいてきたようです。

 倫理的にデリケートな問題ですが、今後遺伝子工学の技術や遺伝子に関する研究が更に進んでいくことでろうコミュニティにどう影響していくのか、過去に起きたようにまたろうコミュニティを震撼させるのか。そう考えさせられた斬新なテーマだったと思います。

 参加してくださった皆さま、ありがとうございました!!


 

過去のニュース一覧へ

トップページへ戻る