特別企画ろう者学アフタヌーンティーントーク:奥沢忍先生

2015/01/22掲載

 1月14日(水)にろう者学特別企画アフタヌーンティーントークを行いました。

 今回は、中高度難聴の教員である奥沢忍先生にお越し頂きました。地域の小中学校で30年以上にわたって担任をつとめ、教鞭をとられている先生です。講演テーマは「聴覚障害を持つ小学校教員による授業展開の試み ~児童とのコミュニケーションを図りながら授業を成立させる工夫を探る~」です。トークには教職員学生合わせて20名の参加がありました。ご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

 奥沢先生は、小中高大学と一般校育ちのインテグレーション経験者です。聞こえの程度はというと、1対1のコミュニケーションならなんとか聞き取れるものの、ちょっと3、4メートルも離れてしまうとほとんどわからずじまいであり、数人による会話を聞き取るのはさらに難しいそうです。大学卒業後、一般学校の教員として採用されるも、教員1年目には絶え間ないストレスで聴力をさらに落としてしまうという事態に見舞われてしまいます。聞き間違いや聞き返しが増えてしまい、授業においても、児童たちの声をきちんと聞き取る自信をなくしてしまいました。身近に相談できる相手もおらず、当時は教員を続けるべきか大いに悩んだといいます。

 そんな中で、偶然目にしたNHK教育番組「ろうを生きる 難聴を生きる」が大きな転機となりました。番組で紹介されていた大阪の坂本先生との出会いです。教員になった後、突発性難聴で完全に失聴した逆境にもめげず、一般の小学校で教鞭を取り続け、筆談や手話による工夫をこらした授業を展開されていました。坂本先生にお会いするなかで、力強い励ましとアドバイスを頂くことができ、これまで以上に「魅力的な授業ができる教師になりたい」の原点に立ち返ろうと決心されたのでした。

 先生は、これまでの取り組みの見直しから、工夫を再確認され、授業のユニバーサルデザインの視点を取り入れた、聴者相手の授業の工夫に取り組まれました。一例を挙げると、児童生徒の机椅子を通常の碁盤のような配置にしてしまうと、1、2列目の児童の声しか聞き取れないため、机椅子をコの字型の配置にし、その真ん中に立つことでどの子とも容易にコミュニケーションをとれるようにしています。また、音声言語だけに頼るのではなく、児童たちに発言内容を書いてもらったカードを掲示し、操作することで思考の視覚化を図る他、担任以外にも教室にいる支援員やチームティーチングの教員を活用して、児童たち同士の会話などを拾ってもらい、学級全体の状況を把握するための情報を提供してもらったりするなどの実践例を紹介していただきました。一斉学習、個別学習、グループ学習など様々な授業スタイルの中から、聴覚障害がある教員がやりやすい方法を取捨取得する中で、わかりやすい授業スタイルを追求することが大切であるとのことです。また、聴覚障害があることで、逆に子ども自身が考えさせるきっかけにすることも提案されました。お話の中では、プール学習の指導で当事者が補聴器を外さざるを得ない時に、子ども達に「補聴器を外した先生はプールだと聞こえないんだけど、どうすればいいかな?」と、問題を投げかけるなどの実例をあげてくれました。そうしたきっかけを通して、いわゆる共生社会のあり方についても子ども達なりに考えていくことができることを示されました。

 一方で、聴覚障害のある教員を取り囲む環境についても様々な現状をお話していただきました。例えば、職員室は広く様々な騒音が生じるため、会話や電話でのやりとりも聞き取りにくくなり、とても困る場面がでてきます。冬のシーズンにはマスク姿の教員も多く、話している口の形が読み取れないこともあるそうです。急な職員作業が入ったときに、「集まってください」という呼びかけの声に気づかず、「あれ、誰もいない!」と取り残されてしまったこともしばしばだったとのこと。このように聴覚障害のある教員には直面する困りごとがたくさんあり、話かけるときには近くに来て話してほしい、メモの形などで確認できるようにしてほしいなどの要望を周囲に伝えるようにしているそうです。教員の仕事に限らず、日頃から気持ちよく仕事をする為には、周囲とのコミュニケーションを大切にしなければならないと話してくださいました。

 また、「お耳の不自由な先生で大丈夫かしら?」と初めは不安だった保護者たちも、先生がしっかりと授業を行う中、子ども達が生き生きと学ぶ姿を目にすることで安心され、その後は強力な応援団となる形で信頼を寄せてくれます。先生は学級通信を週1、2回発行し、保護者たちとのコミュニケーションを深めることも試みています。保護者にとっては、学校と家庭をつなぐだけでなく、担任の考えを知ることができるなど、学級通信によって自身の聴覚障害のことを理解してもらうのに大きく役立ったそうです。

 聞こえにくい教員同士の連携を図る試みとしては、6年前には、一般学校で働く聴覚障害を持つ教職員の会を結成し、毎年、交流会の形で聴覚障害教員ならでの模擬授業や情報交換を行っています。同様の環境に置かれている教員は少ないため、この交流会はかけがえのないものとなっています。

 今回、聾学校ではなく地域の小中学校で長らく教鞭を取っておられる方の経験談を直にお聞きすることができ、様々な工夫を重ねる中で魅力ある授業ができる、一般学校の教員として働くことができるなどの可能性を示していただきました。また、授業の中で実践されている工夫内容をも実演を交えて紹介して下さったことで、特に教職課程で将来教員を目指している学生にとっても大変勉強になったのではないかと思います。

 お忙しい中を本学に足を運ばれた奥沢先生、ありがとうございました!!

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