平成27年度第6回ろう者学ランチトーク:大杉豊

2015/06/25掲載

 6月17日(水)に第6回ろう者学ランチトークが行われました。

 今回は本プロジェクト代表の大杉が講師を務めました。講演テーマは「サル学の面白さ」です。愛知県犬山市にある京都大学霊長類研究所の松沢哲郎先生のところで初めて本格的な研究に関わったときの経験についてお話し頂きました。

 おかげさまで、教職員・学生合わせて54名の参加がありました。

 宮崎県の幸島に生息するニホンザルの研究をきっかけに日本独自のサル学の研究が進むようになります。そもそも、人間やサルは霊長類に属し、サルとヒト(人類)に分かれて進化しました。霊長類学とはサルを研究することによって、ヒトの起源について、そしてヒトとは何かを探る学問とされています。

 チンパジーとのコミュニケーションの可能性については、世界中で研究されてきました。手話を教え、真似させる研究においては、ガードナー夫婦のワシューの例が有名で、アメリカ手話の単語を150語程度習得したそうです。別の研究ではココというゴリラが200語程度を習得した例があります。一般的に人間の子どもは5-6歳の段階で2000語程度を習得するといわれています。

 自然なつきあいの中での模倣や表象の発生に関しては、京都大学霊長類研究所の松沢哲郎教授が研究されており、その研究の一環として、大杉先生は1990年~1992年の2年間、「手話コミュニケーションにおける模倣と表象」の研究に関わりました。松沢哲郎先生を始め、伏見貴夫先生、市田泰弘先生、大杉先生のメンバーで進めたそうです。

 被験対象はチンパジーのメスのパン、当時6歳でした。まずは関係を構築するために、手話に堪能な研究者が直接パンと触れ合っていきます。大杉先生自身も檻の中で一緒に遊んだりしたそうです。チンパジーは猛獣類に分類されるため、注意を払う必要がありましたが、怪我してしまったこともありました。例えば、パンが機嫌を損ねている時に変なちょっかいをしたために、頬を引っ掻かれて大きな傷が残ったこともあったそうです。慣れてくると、感情によって表情のパターンがあることがわかり、パンの表情から今何を感じているのかを読み取れるようになりました。

 また、パンの視点で誰が偉いのか、序列が決まっているらしく、松沢先生→伏見先生→市田先生→パン→大杉先生の順番でした。大杉先生はパンより下と見られていたそうです。自分はサルより下なのか…とショックを受けたと笑いを誘っていました。

 遊んでいる最中の指差しにおいては、人間同士はアイコンタクトしてから指差すのに反して、パンは目を合わせなかったといいます。それも新しい発見の1つでした。このようにパンとの信頼関係を積み重ねていき、確実なものにしていきます。

 最終段階として、お買い物ゲームの共同作業課題を行い、指差しの理解、表出、身振りの表出について分析しました。まず、大杉がトンカチ、はめ板の「親」(本体)を持ち、パンに指差しを使って、当てはまる「子」を要求します。逆にパンがトンカチか缶の親(本体)を渡され、大杉に指差しで当てはまる「子」を要求します。その結果、指差し、身ぶりの理解課題と表出課題において、全体的に表出の方が成績が良かったというデータが出ました。

 その実験過程で、特徴的な身ぶりの自然発生も見られました。トンカチと缶についてものの形を模倣したのか、手の動きを模倣したのか、パンが身ぶりで表すようになったといいます。

 「たかが指差し、されど指差し。」この研究を通して、指でものを指すだけだが、それがお互いに出来ないとコミュニケーションが成り立たない、それだけ指差しは手話言語の構造と体系を支える重要な要素であるとわかったといいます。

 パンは現在も娘パルと霊長類研究所で暮らしています。大杉先生はこの研究がきっかけで、手話をもっと研究してみたいという思いからアメリカに留学します。そして今は本学で教鞭を取っています。「つまり、その研究に携わっていなかったら、私は今ここ(教壇)に立っていなかったかもしれない」「人生は何が起きるかわからない、若い時は知的関心がわいたらぜひ積極的に関わっていってほしい」とメッセージを投げかけてくださいました。

 参加してくださった皆さま、ありがとうございました!!

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