平成27年度第9回ろう者学ランチトーク:長野留美子さん

2015/07/17掲載

 7月13日(月)に第9回ろう者学ランチトークが行われました。

 今回はLifestyles of Deaf Women代表の長野留美子さんにお越し頂きました。講演テーマは「『ろう女性学』への取り組み~ろう難聴女性のキャリアと子育ての実践から~」です。Lifestyles of Deaf Womenを立ち上げた経緯、活動内容、ろう女性学への取り組みについてお話し頂きました。

 おかげさまで教職員・学生合わせて27名の参加がありました。

 長野さんは明治学院大学在学中から聴覚障害学生支援に携わっており、アメリカ留学や会社勤務等を経て、2006年にLifestyles of Deaf Womenを立ち上げました。現在はろう女性学の構築に取り組んでおられます。ろう女性学とはろう者学と女性学の両方の視点からろう女性について研究する学問です。女性学の研究は1960年代から始まり、現在は様々な大学で女性学に関する講義が開講されています。

 ろう女性学に取り組むようになったきっかけは、ろう女性としての葛藤を経験してきたからだと話します。ろう女性として意識するようになったのは、大学時代、周りの男子学生は一生の仕事を想定して就職活動をしていくのに自分はどこかで覚悟を決めきれなかったときからだといいます。聞こえない自分が将来結婚・出産した後も仕事を続けられる環境が社会にあるのかどうか不安を感じ、先輩たちがどのように結婚・出産を得てキャリアを築いているのか調べたところ、ほとんどの方が主婦で、ロールモデルがあまり見つからず、何故、ろう女性からの発信が少ないのか、どうすればろう女性の社会参加が進むのか、疑問を持つようになったといいます。

 ろう難聴女性は、「聞こえない」こと、「女性である」こと、二重のハンデを抱えています。女性はライフステージの中で、結婚、出産、育児、介護などの重要なライフイベントを迎えます。それがキャリア形成に大きな影響を与えています。総務省の年齢階級別労働力のデータを見ると、20代で就職し、30代で結婚・出産でいったん退職し、落ち着いた40代に再就職するというM字型曲線を描く傾向が見られます。他の先進国では日本ほど急激な曲線を描く傾向はなく、つまり結婚・出産で退職することがあまりなく、日本は女性にとって働きやすい環境がまだ整備されていないことを示しています。

 従来からあるろう難聴を取り巻く就労の問題に加えて、ろう難聴女性は、さらに結婚・出産・育児による離職、仕事と育児の両立の困難、育児時短勤務のため重要な仕事を任せてもらえない、昇給や昇進が困難などの問題を抱えています。

 そこでLifestyles of Deaf Womenを立ち上げ、ろう女性学の発信、ろう女性史の編纂、男女共同参画センターとの協働事業などの活動を行ってきました。また、ろう女性同士の重要な情報交換の場ともなっています。ろう女性に関する米国の事例や文献なども収集してきました。米国にはDeaf Women United などのろう女性団体があり、国立聾工科大学(NTID)やギャローデット大学でろう女性学に関する講義が開講されています。

 国内の場合、個人史やエッセイ、当事者団体の文献などの蓄積はありますが、学術的な研究までには至っていません。そこで、ろう女性史編纂プロジェクトを実施し、今村彩子監督との共同で、ろう女性史講演会シリーズ「手話による自分語り」DVDを制作しました。制作に関わった方は全て当事者だったため、制作そのものがエンパワメントにつながったといいます。講演会では昭和の時代を生き抜いてきたろう女性3名に自らの経験についてお話し頂きました。昔は、ろう女性の結婚・出産に対する偏見があったこと、女性であるが故に教育の機会が奪われたことなど様々な話を伺うことができました。

 また、ろう難聴の母親の育児についても、赤ちゃんの泣き声が聞こえない、救急など緊急時の電話連絡が困難、地域の育児関係の行事に参加しづらい、聴こえる子どもとのコミュニケーションが困難、ママ友ができにくいなど、様々な問題を抱えています。ろう難聴の母親同士のサークルや集まりはあるが、地域と繋がれる場がなく、保育園や小学校では周囲から孤立しがちになってしまうという現状もあります。

 そこで、長野さんは住んでいる地域で、手話を勉強中のママ友に出会ったことがきっかけで、「手輪(しゅわ)るサロン ~手話る子育て交流会~」を立ち上げました。聴こえるママ友と集まり、子育てに関する相談をしたり、子どもたちと遊んだり、手話を教えたりと、地域で共に育てる「共育」の場を目指して活動しました。学童クラブとコラボして小学生に手話を教えたり、イクメンパパ団体とコラボしたり、地域交流イベントを開催したりなど様々な取組みが評価され、2012-2013年度に「やさしいまちづくり」大賞を受賞しました。今は若いお母さん方が引き継いで活動を続けているそうです。

 これらの活動を通して、エンパワメントの場を設けること、メディアリテラシーを磨くこと、そして自分のニーズを相手に伝え、周囲に働きかけていくことが重要であり、これらの積み重ねが、職場や地域コミュニティ、公的政策などにおいて発意・発言する能力につながるのではないか、それによって女性の参画が進むのではないかと話してくださいました。ろう女性が自分らしく生きるためにはどうすればいいのか、どうすればろう女性の社会参加が進むのか、共に考えていきたいとメッセージを投げかけてくださいました。

 参加してくださった皆さま、ありがとうございました!!

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