平成29年度第4回ろう者学ランチトーク:尾田 将史さん

2017/06/22掲載

 6月19日(月)に第4回ろう者学ランチトークが行われました。今回は、鳥取県立鳥取聾学校で社会科教諭および写真部顧問部長を務めていらっしゃる尾田 将史さんにお越しいただき、「12年間の教員生活を通して、私が感じた事は何か。」というテーマで、お話しいただきました。

 おかげさまで、教員と学生、地域の方々を合わせて、32名の参加がありました。

 尾田さんは、実は、今年の4月から本学の大学院情報アクセシビリティ手話教育コースの研究生として1年間在籍しています。手話教育をろう学校の中でどう位置づけるのか、全国で統一がされていないろう学校における手話教育の方針を見直し、その新たな教育方針を提示するために、鳥取県を代表してつくばに赴任してこられました。「ろう学校における手話教育の系統性の在り方」を研究テーマとし、日々研究活動に取り組んでおられます。

 今回の講演では、まず、生い立ちから入りました。鳥取県岩美町田後出身で、そこは海が近く、キレイなところです。家は港に近いため、毎日海を眺める生活を送っていました。個別に聞いた話では、父親は昔、漁師だったそうです。2歳の時に聴覚障害が判明し、ろう学校幼稚部に通い始めます。中学部まで、一般校との交流学習に週1,2のペースで通って、きこえる子たちと一緒に授業を受けていたのだそうです。そこで読唇力が上達して、考える力、忍耐力を身につけられたといいます。しかし、中学部で、ろう学校での手話による全てがわかる授業、壁の無いコミュニケーションに衝撃を受けて、一方で、交流学習では聞こえる人の中で手話をあまり使いたくないという気持ちもあり、アイデンティティの葛藤があったのだそうです。同時に、写真部の活動も始め、写真コンテストで多数の入賞、地元の新聞に掲載されるなどの実績があります。高等部を卒業後は、鳥取聾学校で初の大学進学者として、教員を志すようになります。

 そこで、尾田さんは、何故、写真家ではなく、教員を目指すようになったのでしょうか?大学4年間での経験が教員を目指す原点になっているのだそうです。手話サークル、フリースクール、海外放浪等の様々活動の中で、きこえる人ときこえない人との交流をして、初めてきこえない自分が好きになり、手話を通して広がる世界の楽しさ、情報保障の重要性を知ったことが大きいといいます。大学に進学する当時は、写真を学べる大学に入ろうと写真家になることを夢見ていたが、写真家として生活するのは大変だからと、周囲に勧められて渋々教員の道を行くことになりました。しかし、その4年間を通して、ろう教育にはろうの先生が必要である事を悟り、母校を何とかしたいという思いが沸き起こったことで、教員を目指す気持ちが強くなったのだそうです。

 次に、ろう学校での教育の在り方についても触れます。今までは、口話教育が普及していたために、口話(音声)ができるか、できないかで、対人関係がうまく持てる、持てないを判断されがちなところがありましたが、これからの対人関係においては、口話(音声)ができなくても、筆談ができるように日本語を書く能力、その他のコミュニケーション力(児童生徒が自ら対応策を考えられる力)を育てる必要があると考えているのだといいます。手話・指文字・キューサインで話す会話に参加していなくても、見て分かることで、目に見える情報は多くなるということを例示し、筆談ができるのとできないのとでは得られる情報量が明らかに変わってくるという、書く能力、コミュニケーション力を育てることの重要性をお話しくださいました。そこに、尾田さんの今の研究に対する熱い思いが垣間見えたような気がしました。

 母校(鳥取聾学校)に教員として戻って(配属になって)からは、子どもやその保護者の障害受容のアプローチ、写真部指導、きこえる教員へのろう教員としての意見提供、県内での聴覚障害理解の普及活動(講演活動)等、幅広く活動されています。写真部の活動では、児童生徒が写真を撮ることを通して、きこえる人と積極的に関われるように、校外活動の機会を提供したり、コンテストに出品させたりということをしているのだそうです。また、地域校と聾学校の児童生徒の交流の場(集団生活の場)を提供することで障がい認識(自己肯定)、手話の肯定、選択肢(進路、生き方など)の広がりを支援することを目的とした「仲間づくり交流会」を企画し、取り組んでおられます。

 最後に、12年間の教員生活通して、私が考えた事は何か。

 それは、ろう学校にはきこえる教員ときこえない教員のそれぞれの役割が相互的に機能することが必要であるという事。つまり、2つの文化を知り、相互の文化を肯定できる教育が重要であるとのことでした。

 鳥取から全国へ、尾田さんの“挑戦”は、本学に研究生として来る前から始まっていたようです。本学での1年間の学びを糧に、今後、全国のろう学校の教育を大きく変えるお方になるでしょうね。尾田さん赴任の間に在籍している教員を目指す学生は、大変運が良いと思います。彼が本学にいる間に、積極的に話を聞きに行き、将来教員となった際には彼に続いて、是非ともろう教育を変える一人となってください!

 参加した皆さん、ありがとうございました!!

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