ろう者学とは?

ろう者学とは?

『ろう者学』とは、英語の「Deaf Studies、デフスタディーズ」を日本語に訳した名称です。ろう者、難聴者、盲ろう者や彼たちを取り巻く人たちが過去から現在に至るまでたどってきた歴史をはじめ、手話やろう文化、ろう教育、人権など様々な領域を横断しつつ、聴こえの状況に焦点を当てるのではなく、言語文化的な視点からろう難聴の生き方や考え方などに関して研究する学問でもあります。

 

欧米では、「黒人学」や「女性学」、「障害学」、「LGBTQ(セクシュアルマイノリティ)学」といった社会的マイノリティグループについて研究する学問があります。これらの学問と同様に大学など高等教育機関において教育研究活動が行われています。

そこで学ぶ学生たちの背景も、国籍、障害のあるなし、生まれ育った環境、使用言語、年齢など多様です。

 

学生がお互いがそれぞれの違いを超えて、『ろう者学』について学び、卒業後は教育者、研究者、通訳者、支援者、地域社会における活動者など、それぞれの専門分野で活躍しています。


本学におけるろう者学の取組み

筑波技術大学は、日本で唯一ろう難聴学生のための国立大学としても知られています。毎年、全国各地からろう難聴学生が集まってきます。学生それぞれ生まれ育った地域や家庭環境はもちろん、大学に入るまでに受けてきた教育やコミュニケーション手段、価値観など実に多様なのです。

 

「手話言語」関連や「ろう難聴者の社会参加」「自分史」など、ろう難聴者の様々なコミュニケーション手段や生き方、考え方、ろう難聴者を取り巻く事柄などについて学んでもらうための授業を展開しています。

 

そして、大学生活を通して、お互いに切磋琢磨しながらそれぞれの価値観や文化などの違いを超えて、自分が持つ価値観を広げることで、自分らしいキャリア人生を歩んでもらえるような指導を心がけています。


ろう者学教育コンテンツ開発プロジェクトの取組み

教材やカリキュラム、啓発資料など『ろう者学』関連のリソースを開発してきています。カリキュラムは、「コミュニティ」「歴史」「スポーツ」「芸術」「テクノロジー」「教育」「手話」の7分野を中心に取り上げてきています。そして、これらをコンテンツとして編集し、ウェブサイト上に公開しています。

 

また、様々な分野でキャリアを積んでいるろう難聴者を講師としてお迎えし、これまでのご経験や現在の活動を通して、ろう難聴者のキャリア形成に必要と考える知識などについてご講演いただき、その様子を撮影、編集した映像コンテンツもご提供しております。

 

これまでに、全国の高等教育機関で学ぶろう難聴学生や彼たちを取り巻く学生、教職員をはじめ、他教育機関や地域社会や社会人団体関係者など、幅広く利活用いただいております。

 

このような取り組みを通して、より多くの人たちに『ろう者学』のことを知っていただき、日本において今後さらに発展していくことを心より願っています。


アメリカにおけるろう者学

私の名前は、ディアドレ・シュレホファーです。ニューヨーク州ロチェスターにあるロチェスター工科大学、国立ろう工科大学(NTID)のアメリカ手話・通訳教育学科の准教授です。

私は今までロチェスター工科大学で15年間、デフ・スタディーズを教えてきました。手話、文化、デフコミュニティなどたくさんのコースを開発してきました。

例えば『通訳技術の入門クラス』といって書記英語からアメリカ手話への翻訳、アメリカ手話から音声英語への翻訳などを学ぶきこえる人のためのクラスがあります。演劇、物語、英語などの翻訳を通して、通訳とは何か、その意味について分析します。

また、アメリカのデフコミュニティの社会言語など社会学も教えています。ろう者の文化と経験とは何でしょうか。ろう者といっても様々です。ろう学校か一般の学校か、そして様々な政策、教育、社会、手話に触れて変わっていきます。ろう者に出会うか、きこえる人に出会うか─このようにろう者を取り巻く状況は様々です。

また、デフコミュニティとろう文化の歴史についても教えています。アメリカの状況を中心に学んでいますが、国際的な見方も含めています。言語の権利、教育、民族など、デフコミュニティがどのように権利を勝ち取ってきたのか、このように様々なコースを責任を持って担当しています。これらのコースは大学において重要な役割を果たしています。

デフ・スタディーズとは何か? 女性学、黒人学、日本学などありますね。デフ・スタディーズは大体20年くらい前から新しく始まりました。初めてプログラムを立ち上げたのはカリフォルニア州立大学ノースリッジ校(CSUN)です。BA(学位)の4年間のプログラムがあります。ろう者だけではなく、言語、文化に興味のあるきこえる人も多く学んでいます。科学、数学、政治学と同じように新しい専攻の1つとしてスタートしたのです。そして2番目にロチェスター大学でテッド・スパラ教授によって立ち上げられました。1992年、私がそこに入り、カリキュラムを開発するように依頼され、仕事してきました。それから15年が経ちます。ギャローデット大学にもあり、BAだけではなく、MA(修士)プログラムも提供しています。今では他の大学で開講されるようになり、人気のあるコースになっています。日本の筑波技術大学にもでき、様々な国でプログラムが立ち上げられ、素晴らしいことです。

デフ・スタディーズの歴史について解説します。その背景にある方針とは何か?例えば、大学生が大学に入ってアメリカ手話クラスを履修するとします。ろう者の言語とは?コミュニケーション方法は?ろう者の経験とは?ろう者に関する基本的な知識は限られています。しかしアメリカ手話を学んでいくにつれて文化について深く理解するようになり、視野も広がるでしょう。デフコミュニティの経験とはろう者の人生や、学校、教育、社会、医療、科学などに対する見方や自分たちの生活を掛けた経験などを指します。ときどき肯定的なものもあれば否定的なものもあります。それでもろう者について理解できるように教えることが重要です。デフ・スタディーズの役割とはろう者の文化に対するきこえる人の理解を深めるだけではなく、ろう者が自分自身についてよりよく理解することにあります。それがデフ・スタディーズの目的です。たとえば新聞などのメディアに時々、黒人や女性などに焦点を当てた記事が載りますが、どれもきこえる人からの視点で書かれています。ろう者の視点によるものはそんなに多くありません。ろう者の視点を含めて、バランスが必要になります。私たちの声を伝える、ろう者の手話の権利や多様性を主張する必要があります。